従来は木造軸組工法(在来工法)による建物には、四隅などに土台から
軒まで継ぎ目のない通し柱が用いられるのが常識とされてきました。
しかし、耐震性への理解や金物の技術革新によって、通し柱を設置するのは
必ずしも当たり前ではなくなってきています。
今回は通し柱とは何か概要を押さえたうえで、建築基準法による規定や
問題点などを取り上げていきます。
そもそも、通し柱とは
通し柱とは、2階建て以上の木造建築の中でも木造軸組工法で
用いられている、土台から軒まで通っている継ぎ目のない柱のことです。
つまり2階建てであれば、土台から2階の軒まで1本の柱として
通っているのが通し柱です。
通し柱を設置するのは、つなぎ目のない1本の柱を用いることで
各階を一体化させて、耐震性や耐久性を高めるのが目的です。
通し柱は基本的に建物の隅に設置されるため、1階と2階の面積が
同じ総2階の直方体の建物であれば、本数は4本です。
建物が変形していると通し柱の本数は増えます。
たとえば、L字型の家は出隅5箇所と入隅4箇所とするなど、建築士が
構造上必要な位置に通し柱を設定して設計が行われています。
また、通し柱の太さは、通し柱以外の管柱と同じ105mm角のほか、
大きな力かかる位置では120mm角が使用されるのが一般的です。
古くからある伝統工法による建築物では、180mm角や240mm角の
通し柱が使われていることもあります。
皆さんも大きなお寺などで、太い通し柱を目にしたことがあるのではないでしょうか。
通し柱の建築基準法による規定は?
従来は当たり前のように木造建築には通し柱が使われていました。
建築基準法でも、施行令で通し柱に関する規定が設けられています。
<建築基準法施行令第四十三条5>
階数が二以上の建築物におけるすみ柱又はこれに準ずる柱は、
通し柱としなければならない。ただし、接合部を通し柱と同等以上の耐力を
有するように補強した場合においては、この限りでない。
出典:e-GOV法令検索|建築基準法施行令
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325CO0000000338
つまり、原則として2階建て以上の建物の隅の柱は通し柱としなければ
ならないという規定はあるものの、絶対に必要なものではなく、
柱の接合部を通し柱と同等以上の耐力があるように補強することを条件に、
通し柱を用いないことも例外的に認められているのです。
↑建て方イメージ
通し柱の欠点「断面欠損」
通し柱のない家が増えている理由の一つが、断面欠損の問題です。
通し柱は継ぎ目のない1本の柱ですが、横架材の梁や桁、胴差しと
つなぐために穴を開けて差し込み口が設けられています。
通し柱の2面に差し込み口が設けられることが一般的です。
しかし、設計によっては通し柱の4面に差し込み口が設けられている
ケースもあります。
この差し込み口を設けることで柱の断面積が小さくなることを
断面欠損と呼んでいます。
当然のことながら通し柱は断面欠損によって強度がダウンるため、
4面に差し込みが設けられているケースでは強度が大幅にダウンする
ことが考えられます。
大きな地震が起きると、差し込み口の上下の1階と2階で異なる変形が起こります。
そして通し柱に負荷がかかりくの字に曲がってしまうと、強度が弱い
差し込み口のところで折れてしまうというリスクがあるのです。
通し柱は各階を一体化して耐震性などを高める目的で設置されているにも
関わらず、実際には強度が疑問視されています。
こうした通し柱の強度の問題や金物の進化から、補強金物を用いて通し柱を
使わない家づくりを行うケースが増えつつあります。
↑短冊金物の一例
重要なのは耐震設計!
補強金物を使用した「通し柱なし」の家づくり
通し柱を使わない場合には補強金物を用いますが、代表的なのは
1階と2階の2本の柱を梁勝ちにして立てて、ホールダウン金物と
両引きボルトでつなぐという方法です。
この方法をとると柱の断面欠損がなく、強固な構造となるうえに、
特別なコストがかかりません。
一方、通し柱を使う場合にも、金属プレートとドリフトピンで柱と梁を
固定する金物工法であれば、断面欠損を抑えられます。
金物工法では、通し柱に穴の開いた金属プレートを取り付け、あらかじめ
穴を開けておいた梁の穴と合わせて、ドリフトピンを打ち込みます。
ただし、この方法も柱と梁を強固に接続できるというメリットがありますが、
コストが高い点が難点です。
実際の家づくりでは安全で丈夫な家を作るには、通し柱の有無よりも、
木造住宅でも構造計算を伴う耐震設計を行うことが大切です。
一般的な木造住宅では建築確認申請で構造計算の審査が簡略化されているため、
構造計算を行わないケースが少なくありません。
しかし、構造計算を行わずに断面欠損の多い通し柱を使用すると、耐震性に
不安が生じる可能性があります。
↑プレカット工場にある柱材
おわりに
建築家との家づくりなら、通し柱を使った家も通し柱のない家も、
耐震性を踏まえて建てることができます。住宅はデザインや間取りなども
大切ですが、それ以上に耐震性は重要です。
住まいづくりで通し柱や耐震性について疑問や不安を感じたら、
建築家などの専門家に相談してみましょう。