国の施策もあり、既存建築物の有効活用に関心が高まっていますが、
以前は建築確認件数に対する検査済証交付件数の割合を示す、
完了検査率が低いという実態がありました。
そのため、既存建築物を増築するケースなどで、「検査済証がなく
確認申請ができない」という問題に直面することがあります。
そこで、検査済証や確認申請に関する基礎知識を押さえたうえで、
検査済証がなくてお困りの方に向けて、適合状況調査による判定を
受けるという方法を紹介していきます。
確認済証・検査済証とは?
「検査済証がない」という問題の前に、まずは検査済証と
それよりも前に交付される確認済証とは何かというお話から。
建築基準法では、建物の建築を行う前に、建物の設計などの
建築計画が建築基準法などの規定に適合しているか、建築確認を
行わなければならないとされています。
確認済証は、特定行政官庁の建築主事、または民間の
指定確認検査機関に建築確認申請を行い、審査の結果、
建築基準法などに適合していることが認められると交付される文書です。
確認済証が交付されると、工事に着工することができます。
そして、建築工事が完了した後、4日以内に特定行政官庁の
建築主事などに完了検査申請を行い、完了検査を受けることが
義務付けられています。
検査済証は現地で完了検査を受け、建築確認申請の通りに
建築が行われ、建築基準法などの規定に適合していることが
認められていると交付されます。
このほかには、建築物によっては工事の途中の特定の工程で
中間検査が必要です。
中間検査の対象となる建築物は、特定行政官庁のエリアごとに
決められています。
中間検査に合格しないと次の工程に進むことはできず、
合格すると中間検査合格証が交付されます。
↑中間検査の風景
検査済証がないとできないこととは
既存建築物は検査済証がない場合には、原則として建築確認申請が
必要な行為を行うことができません。
既存建築物の工事で建築確認申請が必要なのは、増築や
大規模の修繕、模様替えですが、建物の規模や地域、工事の種類によって異なります。
小規模な建築物である4号建築物では増築や改築を行う場合、
防火地域・準防火地域では広さを問わず、その他の地域では
10平米を超えるケースで、建築確認申請が必要です。
4号建築物は、木造建築物では「階数2以下」「延床面積500平米以下」
「軒の高さ9m以下」「高さ13m以下」、木造建築物以外では
「平屋」「延床面積200平米以下」という条件をすべて満たす建築物です。
大規模建築物では増築や改築、大規模な修繕、大規模な模様替えを
行うときに建築確認申請が必要です。
大規模建築物も増築や改築の場合は防火地域・準防火地域は
広さを問わず、その他に地域では10平米を超える場合に
建築確認申請が必要になります。
また、劇場や映画館、百貨店、学校、病院といった特殊建築物では、
200平米を超える部分の用途変更を行う場合にも建築確認申請が必要です。
ただし、2025年4月に4号建築物の縮小が予定されているため、
現行の4号建築物で建築確認申請が必要となる範囲が広がります。
また、工事の種類の意味を押さえておくと、増築は既存建築物を
建て増しするケースのほか、既存建築物が建つ敷地に別棟を
建てる場合も含まれます。
改築は建築物の全部または一部を解体するか、あるいは災害などで
失った場合に、同じ用途や構造、規模で建て替えることをいいます。
大規模の修繕とは、壁や柱、床、梁などの主要構造部の1種類以上を
1/2を超えて、おおむね同じ材料や形状の材料で修繕することです。
大規模の模様替えは主要構造部の1種類以上を1/2を超えて、
性能の向上を目的に建築物の構造や規模、機能の同一性を損なわない
範囲で改造することをいいます。
これらの増築・改築。大規模な終戦、大規模な模様替えに
該当しない場合には、建物の規模や地域を問わず、建築確認申請は不要です。
たとえば、壁紙を張り替える、キッチンを新しいものに変えるといった
リフォームはいずれにも当てはまらないため、検査済証がなくても行うことができます。
検査済証がない2つのパターン
既存建築物の検査済証がないという状況には、「完了検査を受けて
交付された検査済証を紛失したパターン」と「完了検査を
受けておらず、検査済証を交付されていないパターン」の2つに分かれます。
このうち、「完了検査を受けて交付された検査済証を紛失した
パターン」の方は、検査済証に代わる書類を取得することで、
建築確認申請を行うことができます。
市役所などで、建築計画概要書、または確認台帳記載事項証明書の発行を受けます。
検査済証がなく、建築確認申請ができないことが問題になるのは、
「完了検査を受けておらず、検査済証を交付されていないパターン」の方です。
↑検査済証のイメージ
法適合状況調査による判定と不適合部分の是正が必要
「完了検査を受けておらず、検査済証を交付されていないパターン」の
場合も、所定の手続きを行って、建築確認申請を行う道が用意されています。
国土交通省では既存建築物の有効活用を図るため、2014年7月に
『検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した
建築基準法適合状況調査のためのガイドライン』を策定しました。
ガイドラインにもとづいて手続きを行い、法適合状況調査を受けて
適合していると認められた場合には、作成された報告書を既存不適格調書の
添付資料として用いて、増築などの建築確認申請を行うことが可能です。
確認済証の交付を経て、工事の完了後には検査済証を取得することができます。
ただし、報告書は検査済証とみなされるものではありません。
法的適合状況調査の流れを見ていくと、確認済証がある場合とない
場合ではフローがやや異なります。
確認済証がある場合には、確認済証と設計図書などの提出物を
とりまとめて、民間の指定確認検査機関に申請を行います。
指定確認検査機関では、図上調査と現地調査を実施します。
図上調査は図面上で調査を行査で、提出された図面をもとに建築された
時点での法的適合状況調査を行います。
↑現地調査のイメージ(基礎鉄筋探査)
↑現地調査の際にコンクリートコア採取
現地調査は、現地で目視や計測などにより設計図書と建築物を照合する調査です。
劣化状況の調査も行われるほか、図面通りではない箇所が判明した場合には
詳細な調査が行われます。図上調査と現地調査をもとに報告書が作成されるという流れです。
確認済証がない場合には、指定確認検査機関に申請を行う前の準備段階で、
建築士に復元図面と、規模によっては復元構造計算書の作成の依頼が必要です。
その後の流れは確認済証がある場合と同様で、復元図面などをもとに
法適合状況調査が行われます。
また、確認済証がある場合でも、これまでに増改築などが行われていて、
現況と図面に不整合がある場合には、復元図面や規模によっては
復元構造計算書の作成が必要になります。
法的適合状況調査の結果、不適合となった場合には特定行政官庁に
相談して、法令に適合するように改修などを行うことが求められます。
建築された時点での法的適合状況調査が行われるため、既存不適格建築物と
判定された場合には、緩和措置が設けられています。
検査済証がない建築物も、『検査済証のない建築物に係る指定確認
検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン』に
沿って手続きを行うことで、増築などができる可能性があります。
ただし、実際に手続きを進めていくには、建築に関する専門的な知識が
必要なため、建築士に相談いただくのが現実的です。