地震大国、日本
東日本大震災から10年以上が経過しましたが、
その間に熊本地震が起こるなど、環太平洋変動帯に
位置する日本は地震の多さから「地震大国」と
呼ばれています。
地震の発生に備えつつ、安心・安全に暮らすためには、
建物の地震対策が欠かせません。建物の地震対策には、
主に「耐震」や「制震」「免震」の3つの方法があります。
いつ、どこで地震が起こるかわからない中、
特に将来起こる可能性が高いとされているのは、
南海トラフ巨大地震と首都直下地震がです。
それぞれについて、特徴やメリット、デメリットを
押さえたうえで、コストの違いにも触れていきます。
建物の地震対策は主に 「耐震・制震・免震」の3つ
地震大国と呼ばれる日本では、建物の構造に
地震対策が必要です。地震対策の方法には、主に
耐震・制震・免震の3つがあります。
この3つの地震対策の方法の違いを端的に説明すると、
耐震は地震の揺れに「耐える」構造、「制震」は地震の
揺れを「吸収する」構造、免震の揺れを「伝えない」構造です。
現行の建築基準法で決められた耐震基準に即して
つくられた建物が耐震です。
現行の耐震基準では、「震度5強程度の地震では家屋が
ほとんど損傷しない。
震度6強~震度7程度の地震で、家屋が倒壊・崩壊しない」
ことが基準とされています。
制震や免震は現行の耐震基準よりも、地震への対策を
強化しているものと位置付けられます。
↑左から耐震、制震、免震のイメージ
↑学校の耐震補強イメージ
「耐震」の特徴
現行の建築基準法の耐震基準をクリアしている建物は、
制震や免震と謳っているものを除くと、ほとんどが耐震です。
耐震は建物の強度を高めることで、地震の揺れに
耐える仕組みです。
柱や梁の強度を高める、柱と柱の間に筋交いを設ける、
耐力壁をバランスよく設置するといった方法で、建物の
強度を高めています。
ただし、耐震は地震の揺れに耐える丈夫な構造では
あるものの、大きな地震で激しく揺れが伝わり、上層階に
いくほど揺れは大きくなります。
建物の倒壊はほとんど防げますが、大きな地震では揺れの
激しさから、建物の柱や梁、壁などが損傷することや家具が
転倒することがあります。また、繰り返し地震の大きな
揺れに見舞われた場合には、建物が倒壊することも起こりえます。
耐震は一般的な構造でコストを抑えられるほか、台風の
強風による揺れに強いことがメリットです。
一方で、地震の揺れが伝わることがデメリットあり、
大きな地震が起こったときに、修繕費用がかかる可能性が
あることを踏まえておきましょう。
↑RC造の耐震壁施工イメージ
「制震」の特徴
制震は耐震構造の建物に制振装置を組み込むことで、
地震の揺れを吸収する仕組みです。
制震は従来はビルやマンションなどの高層の建物に
用いられていましたが、昨今では戸建て住宅にも
採用されています。
制振装置には、ゴムダンパーや鋼製ダンパー、
オイルダンパーといった種類があります。ゴムダンパーは
伸縮性があり、繰り返し起こる地震に強いです。
一方で、地震などの揺れや気温の変化によって伸縮
することで劣化も早いことが難点です。
鋼製ダンパーは、地震の揺れによって金属が曲がるときの
エネルギーを熱エネルギーに変換して、地震の揺れを
軽減する仕組みです。
安価ですが耐久性が低く、繰り返しの地震に弱く、
小さな地震では効果が得られにくいといった面もあります。
オイルダンパーは自動車のショックアブソーバーの技術を
応用したもので、容器内のオイルの抵抗によって地震の
揺れが軽減される仕組みとなっています。
繰り返しの地震にも強く、小さな地震でも効果を発揮
しますが、価格が高いです。
制振装置の設置場所で分類すると、梁と柱が交わる
仕口に設置するタイプと、壁に筋交いとして設置する
大掛かりなタイプに分けられます。
地震の揺れによって耐震の建物は劣化していくため、
何度も揺れに耐えることで柱や梁、壁などに損傷が
起こることがあります。
そこで、制震装置を組み込むことで地震による揺れを
吸収することで、大きな地震による柱、梁、壁の損傷を
抑えることができます。
制震は免震よりも安いコストで地震の揺れを吸収して
軽減し、台風など強風による揺れにも強いことがメリットです。
上層階ほど地震の揺れが大きいため、制振装置を設置すること
効果が実感できます。
繰り返し大きな地震が起きても、柱や梁、壁の損傷を
ほぼ抑えられるため、修繕費用がほとんどかかりません。
ただし、制震は地震の揺れを吸収するものの、揺れは
起こるため、家具の転倒防止などの対策は必要です。
また、地盤が弱い土地には導入できない、狭小地の
建物には向かないといった点もデメリットといえます。
「免震」の特徴
免震は、地盤と建物の間に免震層を設けて免震装置を
設置することで、地盤と建物を切り離して、建物に
伝わる揺れを軽減する仕組みです。
免震はオフィスビルや庁舎、医療施設、マンションと
いった大規模な建物への導入がメインです。
戸建て住宅用の免震装置はまだ開発途上であり、
取り扱っているメーカーも限られています。
免震は、地震による建物の揺れをまったくなくす
ものではありません。
免震装置は積層ゴムなどが用いられ、地震の揺れとは
別に水平に揺れることで、建物に伝わる揺れを抑えています。
特に、横揺れの場合は上層階まで揺れが抑えられ、
効果が大きいです。免震は地震の揺れを通常の3分の1~
5分の1程度に大きく軽減できるため、建物の柱や梁、
壁への損傷や家具の転倒が起こるリスクが低くなります。
ただし、地震の縦揺れに対しての効果はあまり見込む
ことができず、建物と地盤を切り離しているため、台風や
津波には強くありません。
免震は地震の揺れを大きく軽減できるため、家財道具の
被害も軽減できることがメリットです。
ただし、導入コストが高く、免震装置の定期的な
メンテナンス費用もかかります。
また、地盤の上に免震層を設けることから、地下室を
設けることができず、1階が地面よりも高くなるといった
デメリットもあります。
さらに、免震装置の耐用年数は40年とされていますが、
実際の耐用年数など技術的に未知数な部分もあります。
技術的に免震で施工を行える事業者は限られています。
↑免震装置のイメージ
コスト面の違いは?
地震対策の3つの方法をコスト面から比較すると、
高い方から免震、制震、耐震の順になります。
制震は地震対策の性能とコストのいずれからみても、
耐震と免震の中間に位置付けられます。
免震は導入コストが高いだけではなく、定期的な
メンテナンス費用も必要であり、耐久年数を迎えた
タイミングで、交換が必要です。
しかし、実際に地震が起きた場合には、耐震が
最も柱や梁、壁といった構造部分に損傷が及ぶ
リスクがあります。制震も柱や梁、壁などに損傷が
及ぶ可能性はありますが、耐震よりは損傷を抑えられます。
一方、免震は大きな地震が起きても、柱や梁、壁などに
大きな損傷が生じることは起こりにくいとされています。
そのため、地震が起きた際の修繕費用は、耐震が
最もかかり、次に制震という順になります。
↑免震構造での竪樋の納まりイメージ
まとめ
建築基準法の現行の耐震基準を超えた安全な建物を
つくるには、制震や免震という選択肢があります。
ただし、一戸建て住宅では、免震はまだ普及していない
ことから、耐震よりもより安全を求めるのであれば、
制震が検討対象です。
制振装置を用いるなど、地震対策を強化した安全な
家づくりをしたい場合には、建築家などの専門家に
相談しましょう。